12月22日(金)読売新聞にて、井上秀之理事長のインタビュー記事が掲載されました。

12月22日(金)読売新聞にて、井上秀之理事長のインタビュー記事(医療ルネサンスページ)が掲載されました。

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読売新聞2017年12月22日(金) 朝刊「医療ルネサンス」

精神科医の井上秀之さん(39)は、徳島市の精神科病院「城西病院」(283床)で理事長を務める。父の後を継ぐため、東京から戻って6年がたった。
年配の人たちがいる病棟は、とりわけ静かな空気が流れる。共有スペースでテレビを見る人、井上さんを見つけて言葉をかけてくる人。新たに入院する年間360人の患者の95%は、1年以内に退院する。一方で、1年以上の入院になる200人は高齢化し、平均年齢はすでに63歳だ。
精神疾患があっても、病院よりは地域で、人のつながりのなかで生きた方がよい。そう考え、病床を33床減らした。患者の立場に近い人をと、統合失調症を持つスタッフも雇った。
退院後の受け皿に在宅支援チームをつくり、50人の患者を支える。入退院を繰り返していた患者が地域での暮らしになじんでいく。けれど、「理想」通りにならない現実もある。
退院を勧めた患者の親族から、「帰れるわけがない」と、困惑や怒りに満ちた言葉が返ることがある。逆に貧困にあえぐ生活を知らされる。60歳代の男性患者は、「俺が病院にいた方が家族が幸せ」と言う。70歳代女性患者は、唯一見舞いに来てくれる姉に自分の年金を使われているが、その姉をかばおうとする。
病院から出れば幸せ、とも限らない。訪問診療に出れば、独居で引きこもったまま、配食サービス以外の一切の支援を拒否し、朽ちかけた畳の上で一日中座っている男性に会う。
病院の「押し出す」力をいくら強めても、それでは一方通行だ。地域や家族からの「引っ張る力」と調和してこそ、「当たり前のはずの理想」が近づく。この国で、厳しい現実を変えようとする地域や行政は決して多くはない。
厚生労働省によると、全国の精神科病院に1年以上入院する患者は約18万人、うち5年以上は約10万人。長期入院患者は年々高齢化し、推計で年間約1万人が地域に戻れないまま死亡退院している。
長期入院の人の多くが入る「精神療養病棟」の患者は、地域の支援があれば約半数が退院可能――とする国の調査もある。本人と社会が負担する入院料の総額は年間1人約400万円だ。この金額は、彼らの幸せに見あうのか? 誰の幸せをかなえているのか?井上さんは自問する。
病院のグラウンドと住宅街を隔てる塀の上に、高く張られていた網。その網を今年10月、撤去した。19年春に予定する新病院の完成に向け、工事が進む。塀と網で囲われた施設ではなく、地域の人の暮らしを守り支える。そんな未来をつかみたいと思う。

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